東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)32号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
成立に争いのない甲第二号証(本願発明の昭和五五年特許出願公告第一八三九〇号特許公報)によれば、本願発明は、「高速印字性能をもち、誰でも容易に使用することのできる新規な邦文タイプライタ」、「英文タイプライタに匹敵する操作性をもつ邦文タイプライタ」、「操作者の身心両面において自然な作業性を実現する邦文タイプライタ」、「オフイス用機器としての寸法と経済性を実現する邦文タイプライタ」、「計算機への文章入力用端末としてのオフイス用機器」を提供することを目的とするものであり(第七欄第一二ないし第二七行)、右目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの、前記本願発明の要旨記載の構成を必須の要件としているものであると認められる。
そこで、原告の主張する三つの構成要素について、当業者が容易に想到しうる程度のものであるか否かについて検討する。
1 漢字と漢字以外の入力との区別指定キーについて
(一) 本願発明に係る邦文タイプライタは、「漢字と漢字以外の入力との区別指定キー」を備えるものである。
ところで、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「漢字はその文章の中での読みに従つて仮名で指定する。(中略)但し、漢字であるという事は、漢字の入力情報として同時に与える必要が有る。そこで漢字と漢字以外の入力との区切を指示するためのキーbを用いて漢字の入力情報であることを指定する。この操作は、例えばキーbを親指で操作する様にキーボード11を操作すれば、英文タイプライタでのシフトキー同様の操作となる。」(前記公報第九欄第三六行ないし第一〇欄第三行)、「ここまでの作業手順を『明日の天気は晴る』という文例を用いて説明する。まずこの文をキーボード11から入力する手順は以下のステツプによつてなされる。
Step1. 漢字指定のキーbを押す。
Step2. 『あす』または『あした』と仮名キーaを用いてキイ―インする。ここで検索部12の出力は、<明日>に相当するコードを発生する。
Step3. 漢字から仮名に移るキーを押す。(漢字指定のキーbを解除する。)
Step4. 『の』のキーを押す。ここでは、仮名の『の』のコードが出る。
Step5. 漢字指定のキーbを押す。
Step6. 『てんき』と仮名キーaを操作する。検索機能12には、『てんき』と読める漢字としては、『天気』、『天機』、『転機』、『転帰』、『転記』の五個が入つていて、これのそれぞれを、それぞれを構成する漢字のコードを発生する。
Step7. 仮名への切換のキーを押す。
Step8. 仮名キー『は』を押す。ここでは仮名の『は』に相当するコードが出る。
Step9. 漢字指定のキーbを押す。
Step10. 仮名キーaで『はれ』をキイ―インする。検索機能12には、読みの『はれ』に対応する漢字として『晴』だけが入つているので、このコードが発生する。
Step11. 仮名にもどることを示すために、漢字と漢字以外の入力の区切を指示するキーを押す。
Step12. 仮名キーで『る』をキイ―インすると仮名の『る』に相当するコードが発生する。
以上のキー操作時には操作者は漢字に関しては全く同音異字の選択に心を配つたり、眼を原稿から離したりする必要は無い。ただ、普通に文章を読む調子で原稿をよみ、手はめくら打ちでキーボードを操作すれば良い。」(同公報第一〇欄第一九行ないし第一一欄第一五行)と記載されていることが認められる。
本願発明の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明における右認定の記載からすると、本願発明に係る邦文タイプライタにおいては、区別指定キーbを押すと、キーボード11からそれに対応するコードが発生するが、区別指定キーbに対応する何らかの特殊記号が漢字に対応する仮名文字であることを指示するものとしてそのまま表示部に表示されるようにはなつていないものと認められる。
また、区別指定キーbを押したとき、右に対応するコードが具体的にどのように作用して漢字が表示部に表示されることになるのかについて、本願明細書には何ら説明されていないが、本願発明に係る邦文タイプライタはキーボード上に四種のキーを備えており、それらの各キーを押したときに発生するコードを何らかの手段で識別しなければ、各キーの目的とする動作をもたらすことはできないと考えられるから、区別指定キーを押したとき、それに対応して発生するコードを識別する手段を備えているものと認めるのが相当である。
(二) 成立に争いのない甲第四号証によれば、東洋経済新報社昭和四五年四月二〇日発行、高橋達郎著「日本語の機械処理―コンピユータによる印刷革命」(第一引用例)中の「第Ⅲ部日本語を処理する1日本語のインプツト」には、第一八四頁末行ないし第一八八頁末行に別紙(二)のとおり記載されていることが認められる。
右認定の記載内容によれば、第一引用例に記載されているカナ・インプツト方式は、カナタイプによりカナ文字を計算機にインプツトして漢字かなまじり文に変換し、これをアウトプツトするものであるから、この方式を採用するためには、入力装置(カナタイプないしキーボード)、計算機、デイスプレイ装置、印字装置が必要であることは明らかであり、また、キーボード、計算機は、少なくとも次のような装置ないし機能を備える必要があるものと認められる。
イ キーボードは、カナ文字を入力するキー、漢字とかな文字の入力を区別するための記号である*用のキー、同音異字の漢字のうちの一つを選択するためのキー、その他の操作用のキーを備え、各キーを操作すると、それに対応するコード(符号)を発生するものであること。
ロ 計算機は、キーボードによる入力情報ないし選択後の漢字等のコード等を記憶するためのもの(メモリ)、文字等のコードを入力し、文字等のパターンを発生させるためのもの(パターン・メモリ)、同音のカナ文字に対応する同音異字の漢字(複数の同音字)のコードを発生し、デイスプレイ装置上に表示するためのもの(検索部)、デイスプレイ装置上に表示された同音異字の漢字のうちの一つを右イの選択キーの操作に応じて選択するもの(選択部)、カナ文字を入力し、これを漢字かなまじり文に変換して出力するために、右の各部を制御するためのもの(コントローラ)を備えるものであること。
そして、前記のとおり、*の記号は、インプツトするカナ文字が漢字であることを示すための記号であつて、キーボード上の対応するキーを操作することによつて、漢字に対応するカナ文字の前後にインプツトされ、デイスプレイ装置上にも表示されるものである。
(三) 成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例(昭和四八年特許出願公開第二四六三二号公開特許公報)記載の発明は、印字情報変換装置を有する印字機、特にタイプライタ打鍵部とタイプライタ印字部の間の印字情報信号を変換する装置に関するものであるが、その明細書の発明の詳細な説明の項には、従来例の説明として、「従来カナ文字とタイプ(打鍵)することによつて、漢字混りの通常の和文をタイプアウト(印字)する方式が提案されている(特願昭四二―六六五五六)以下図面を用いて上記方式の原理について説明する。第1図(別紙(三)参照)は上記方式の基本的な構成ブロツク図である。同図において、1はタイプライタ打鍵部で、通常のテレタイプライタの打鍵部から成る。そして、カナ文字、英字、数字、特殊記号と若干の機能キー(以下「カナ文字」で代表する。)などが打鍵できるもので、タイプ者が打鍵するとその文字に対応した符号、たとえば8ビツトの符号に変換されて取り出せる。2は出力回路であつて、たとえばタイプライタ印字部などに送られる。(中略)漢字を印字する場合はその旨を打鍵する(その鍵を仮に特殊記号△とし、以下漢字変換開始指令とする)。次に印字される漢字にあらかじめ与えられているカナ文字(以下これを記憶コードと称する)を打鍵し、そして以上を漢字に変換して印字する旨を打鍵する(その鍵を仮に特殊記号◇とし、漢字印字指令とする)。上記の各漢字に相当するカナ文字は全ての漢字を区別でき、かつタイプ者が容易に記憶できるように設定する。(中略)カナ文字式タイプライタ打鍵部1の鍵を打鍵すると、その鍵に対応する符号(ここでは8ビツトとする)が電気信号に変換されレジスタ3にセツトされる。これが通常のカナ文字(数字、ローマ字を含む)であれば、これを検出回路4で検出し、その出力信号線13によつて符号をレジスタ5へ移す。レジスタ5の出力は、さらに、変換回路6へ加えられる。(中略)漢字を印字する場合、前述のように、鍵△を打鍵すると、この打鍵に対応する信号は前述のカナ文字の場合と同様にレジスタ3にセツトされる。さらに検出回路ではこの△に相当する符号を検知すると信号線14により変換回路6の機能を一時停止させ、次に漢字印字指令の機能鍵、すなわち前述の◇を打鍵するまで信号線12によつて打鍵情報を順次別に設けたレジスタ5、7および8へシフトして蓄積記憶する。そして検出回路4が◇に相当する信号を検出すると、信号線14の出力をとめ、再び変換回路を働かしレジスタ5、7および8にある打鍵情報符号(最大24ビツト)を変換回路6に加え、その符号に対応する漢字の印字駆動符号12ビツトに変換する。この12ビツトの情報は出力回路2を経てタイプ印字部に加えられ、漢字の活字を選択、印字する。」(前記公報の明細書の項第二頁第一一行ないし第六頁第五行)と記載されていることが認められる。
(四) 前記のとおり、第一引用例記載のものにおける*の記号はデイスプレイ装置上に表示される点で、区別指定キーを操作しても、区別指定の記号が表示部に表示されない本願発明の装置とは相違しているということができる。
ところで、前記のとおり、第二引用例に記載されている従来例における特殊記号△及び◇は、漢字に対応するカナ文字の鍵(キー)を打鍵する前後に、それぞれの鍵が打鍵されるものであり、これらに対応する符号は、それらが漢字変換開始指令、漢字印字指令であることを検出回路4において検出し、装置をしてそれらの間に打鍵されたカナ文字を対応する漢字に変換するようにするためのものであるということができる。
したがつて、第二引用例に記載されている従来例における特殊記号を発生させる鍵は、本願発明における漢字と漢字以外の入力との区別指定キーと、その機能において何ら異なるところがないものというべきである。
もつとも、本願発明に係る邦文タイプライタでは一個の区別指定キーが用いられているのに対し、第二引用例記載の従来例のものでは△と◇という二個の特殊記号を発生させる鍵が用いられている点で相違しているが、これを一個の鍵に代える程度のこと、すなわち、一個の鍵を用いて最初の打鍵で漢字変換開始指令を発し、二回目の打鍵で漢字印字指令を発するようにすることは、当業者にとつて容易に想到しうる程度のことと認めるのが相当である。
なお、第二引用例記載の従来例のものは表示部を備えていないが、特殊記号△あるいは◇を発生させる鍵の打鍵は、それに対応する符号を検出回路4において検出した場合に、それに応じて変換回路6の変換機能を一時停止しあるいはその停止を解く(変換機能の再開)ためのものにすぎず、右符号がそのまま検出回路4から出力するわけではないから、出力回路2の出力を表示部に表示しようとする場合であつても、△及び◇の記号が表示部に表示されることはないものと考えられ、この点でも本願発明における区別指定キーの打鍵の場合と異なるところはない。
また、検出回路4は、打鍵部1における打鍵がカナ文字の鍵を打鍵したものであるのか、あるいは前記特殊記号を発生させる鍵を打鍵したものであるかを、入力される符号から識別する装置であるということができ、したがつて、右検出回路4は、本願発明に係る装置において備えているものと認められる前記識別手段に相当するものということができる。
以上のとおりであつて、本願発明における区別指定キーと、第二引用例記載の従来例における特殊記号△及び◇を発生させる鍵とは、機能的に格別の差異はないものというべく、かつ、右特殊記号を発生するための二個の鍵による機能を一個の鍵によつて行うようにすることも当業者において容易に想到しうる程度のことと認められるから、本願発明における区別指定キーと第二引用例に記載されているキーとの間に機能のうえで実質上の差異は認められないとした審決の認定に誤りはなく、請求の原因四、1記載の審決取消事由は理由がないものというべきである。
2 入力モードと表示モードとの切換キーについて
(一) 本願発明に係る邦文タイプライタは、「入力モードと表示モードとの切換キー」を備えるものであるが、本願発明の特許請求の範囲中に「前記切換キー操作によつて表示モードに切換えたとき前記ページメモリに収容されたコードに従つて対応する文字等のパターンを表示又は印字する表示部」という記載があり、本願明細書の発明の詳細な説明に、「次に作業24において原稿を読みつつめくら打ちで数行から一頁分のタイプインを完了した時点で、入力モードから表示モードに移る切換キーcを操作する。この時点までに入力されたデータは印字するフオーマツトとそのフオーマツト位置に印字すべき文字のコードがページメモリー13に収容されているので、表示モードでは入力されたデータが表示部15によつて入力された文章の配置に従うフオーマツトで表示される。この表示によりタイプ操作者は同音異字の選択及び誤文字訂正等のチエツク25を行なう。」(前記公報第一〇欄第八ないし第一八行)、「いま、ここで切換キーCの操作により入力モードを表示モードに切換えるものとすると、デイスプレイ面には第4図に示す如き表示がえられる。(中略)表示モードでは表示面上に示された同音異字の中から入力データとして正しいものを選択する作業と、入力した文章の読み直し作業とを兼ねて行う。」(同公報第一一欄第一六ないし第二三行)と記載されていること、ならびに前記1項(一)で認定した作業手順についての説明(同公報第一〇欄第一九行ないし第一一欄第一五行)を総合すると、本願発明においては、キーボード上の仮名文字入力キーを操作しても、それに応じたコードはページメモリに収容され、右コードに対応する文字等のパターンが直接表示部に表示されることはなく、入力作業は入力モードにおいてのみ行い、切換キーによつて表示モードに切換えられたときに、ページメモリに収容されたコードに従つて対応する文字等のパターンが表示部に表示され、その文字等の修正、選択作業は表示モードにおいて行われるものであり、右に述べた入力モードと表示モードを切換えるために切換キーが備えられているものであると認められる。
なお、表示モードにおいても、キーボード上の選択キーを操作したときに発生する信号は、別紙(一)の第2図、第6図によつても明らかなように、キーボード11から選択部16を経て、ページメモリ13と表示部15に供給されるものであり、これにより表示モードにおける選択作業を可能にしているものと考えられる。
そして、前記のとおり、本願発明の目的の一つは、「作業者の身心両面において自然な作業性を実現する邦文タイプライタを提供すること」にあるが、前掲甲第二号証によれば、本願発明においては、前述のように入力モードと表示モードという二つの動作を行うものとし、各モードを切換えるためのキーを備えることによつて、「操作者は全く異質の労働を、全く違つた時間に実行している。しかもその切換は操作者自身の心身の疲労度によつて自由に選択することができる。」(前記公報第一二欄第四ないし第七行)、「長い文章であれば、第3図に示すように表示モードから入力モードへの切換26を行ない、再び仮名キーによつてタイプインを実行して同様の操作をくり返して、全作業も完了する。このように異種の作業を交互に実行することによつて相互に疲労回復の役割を果している。」(同公報第一二欄第一六ないし第二一行)という作用効果を奏するものであると認められる。
(二) ところで、第一引用例には、入力モードと表示モードとを別個に備え、右各モードを切換えるためのキーを備えることについては何らの記載もないところからすれば、第一引用例記載のものにおいては、キーボードによりカナ文字、*記号等を入力すると、それに対応するかな文字、*記号、漢字等は直ちにデイスプレイ装置に表示されるものであつて(なお、「同音の語が二つ以上現われたら、確認のうえ不要の語を消去」し、「またこのデイスプレイを用いて校正も同時に行なえる」と記載されているとおり、デイスプレイ装置に表示した状態で同音異字の漢字の選択、確認、校正を行うものである。)、そもそも入力モードと表示モードとを別個に備えるということ自体想定されていないものと認めるのが相当である。
したがつて、第一引用例記載のものにおいても入力モード及び表示モードが存在することは明らかであるとの前提に立つて、この各モードを切換えるためにキーをキーボード上に設けることは格別の発明力を要しないとした審決の認定は誤つているといわざるをえない。
また、審決は、入力操作中に表示部に入力情報を表示するか否かは任意に選択しうる単なる設計的事項にすぎないものと認定しているが、本件出願当時、キーボードによつて計算機に情報を入力する装置において、入力モードと表示モードとを別個に備えたものがよく知られていたことを認むべき証拠はないし、第一引用例においては、本願発明がその目的の一つとしている、前記認定の作業者の心身両面において自然な作業性を実現する邦文タイプライタを提供するというような点については全く認識されていないことからしても、審決の右認定は誤つているといわざるをえない。
3 ページメモリについて
(一) 本願発明に係る邦文タイプライタは、「ページメモリ」を備えるものであるが、これは、特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、「仮名入力キー、漢字と漢字以外の入力との区別指定キー、入力モードと表示モードとの切換キー及び文字選択キーを備え、それぞれのキー操作により対応するコードを発生するキーボードの出力するコード」及び「前記仮名入力キー及び前記区別指定キーとによる漢字の読みの仮名入力により対応する同音異種の漢字のコードを出力する検索部の出力コード」等を収容するものである。
ところで、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「第三の要素は、ページメモリ13である。このメモリーは、キーボード11から与えられるコード、文字等を配置する位置等を示すフオーマツト情報、検索機能の出力である同音異字のコード等を収容するものである。主として、CCDシフトレジスターなどの大容量メモリーを使用する。」(前記公報第八欄第四〇行ないし第九欄第一行)、「次に作業24において原稿を読みつつめくら打ちで数行から一頁分のタイプインを完了した時点で、入力モードから表示モードに移る切換キーcを操作する。この時点までに入力されたデータは印字するフオーマツトとそのフオーマツト位置に印字すべき文字のコードがページメモリ13に収容されている(後略)」(同公報第一〇欄第八ないし第一四行)、「キーボード11中の選択キーdによつて一つの漢字がその配置等に従つて指定されると、ページメモリー中のこれに対応する一コードのみを残し他を除去し、原稿に従つた入力が確定する。」(同公報第九欄第一五ないし第一九行)、漢字選択の例として、「第4図では(1)を指定する。この結果第4図の面は、第5図に示す如く変化しこれによりページメモリー13中のコードも「天気」のコードのみ残る。」(同公報第一一欄第三四ないし第三七行)、「こうして全ての入力が確定するとプリント指示27を実行する。これはプリンタに対して、ページメモリー13の内容に従つたプリント命令を発して高速で印字を行なわせる。この場合ページメモリー13の内容が例えば一頁分確定し、表示モードから入力モードへの切換26の際すでにプリント命令を発生させるように構成することもできる。」(同公報第一二欄第二二ないし第二九行)と記載されていることが認められる。
右認定の記載によれば、本願発明におけるページメモリは、文字等を配置する位置等を示すフオーマツト情報を収容していて、キーボードから入力される文字コードはフオーマツトによる所定の位置に収容されるものであること、選択キーによる選択操作後の漢字コードも右ページメモリに収容されるものであることが認められる。そして、右記載中の「ページメモリ13の内容が例えば一頁分確定し、」における「一頁分」というのは、右記載に続く「表示モードから入力モードへの切換26の際すでにプリント命令を発生させるように構成することもできる。」との記載からいつても、原稿の一頁分を指すものではなく、ページメモリ13の一頁分を指すものと認めるのが相当であるから、ページメモリは頁(ページ)を備えたもの、あるいは頁(ページ)に区分けしたものであり、したがつて、キーボードから入力される文字コードは入力順に従つて各頁に順次収容されていくものと認められる。
(二) これに対し、第一引用例記載のものも、前記認定のとおり、キーボードによる入力情報ないし選択後の漢字等のコード等を記憶するためのメモリを備えているが、第一引用例には、カナタイプによつて文選作業を行うことができる旨記載されているだけで、インプツトした文をどのような形式(フオーマツト)で記憶しておくのかについての記載はないから、メモリに記憶された文がどのように配列されるのかについては明らかでなく、むしろ、「文選作業」という表現が用いられているところからすると、第一引用例記載のものにおけるメモリには、入力順に従つて各文字(漢字に変換されたものを含め)が記憶されるだけであつて、出力に際して、所望の形式により漢字かなまじり文が印字されるものであつて、本願発明におけるページメモリのようにメモリを頁(ページ)に区分けし、所定のフオーマツトにしたがつて頁毎に記憶させるようにしたものではないと認めるのが相当である。この点に関し、第一引用例記載のものにおいて、印刷出力する際に情報がメモリー上に存在しなければならないことは当然であるという一事により、本願発明におけるページメモリに対応するものが第一引用例記載のものにも必然的に存在することは容易に推察しうることであるとする被告の主張は充分な根拠を有するものとはいえない。
右のとおりであつて、本願発明におけるページメモリと第一引用例記載のものにおいて備えられているものと認められるメモリとは同一のものであるとはいえず、したがつて、右ページメモリをキーボードから入力した情報を記憶するメモリであると限定した審決の認定は誤つており、右認定を前提としてページメモリを設けることに格別の発明力を要しないとした審決の判断は誤つているものというべきである。
次に、被告が指摘するとおり、本願明細書には、ページメモリの具体的構成についての記載がなく、また、メモリを頁に区分けしてページメモリとしたことによる効果についても記載されていないが、メモリを前記のとおりの内容を有するページメモリとしたこと自体は新規なことというべきである。そして、ページメモリに記憶された情報をアクセスする方法について、本件出願前に周知のアクセス技術が適用されていることは、当事者間に争いがないが、右技術を適用することにより、ページメモリに記憶されている所望の頁の情報へのアクセスを容易、かつ、迅速に行うことができるという作用効果を奏するものと推認される。そうすると、本願発明におけるページメモリについて、「特有の工夫をしたものとも認められないから、この点は自明の構成を特許請求の範囲中に単に記載したにすぎない」とする審決の認定も誤つているといわざるをえない。
以上のとおり、本願発明の構成要素である、「入力モードと表示モードとの切換キー」、「ページメモリ」に関する審決の認定、判断は誤つており、右誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
仮名入力キー、漢字と漢字以外の入力との区別指定キー、入力モードと表示モードとの切換キー、及び文字選択キーとを備えそれぞれのキー操作により対応するコードを発生するキーボードと、前記仮名入力キー及び前記区別指定キーとによる漢字の読みの仮名入力により対応する同音異種の漢字のコードを出力する検索部と、この検索部の出力コード及び前記キーボードの出力するコード等を収容するページメモリと、前記コードの入力により対応する文字等のパターン情報を出力するパターンメモリと、前記切換キー操作によつて表示モードに切換えたとき前記ページメモリに収容されたコードに従つて対応する文字等のパターンを表示又は印字する表示部と、この表示部によつて表示された前記同音異種の漢字のうち任意の一つを選択する選択部と、前記ページメモリに収容したコードに従つて対応する文字等のパターンを印字する印字部と、これらの制御を行なうコントローラを備えたことを特徴とする邦文タイプライタ。
(別紙(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(二)
カナ・インプツト方式
漢字かなまじり文を見ながらカナタイプで、つまりカナ文字文としてインプツトすると、計算機のなかで漢字かなまじり文に変換されるという方式である。前の構成要素に分解する方式と似た考え方であるが、前者はいかにして漢字を入力するかという面に重点があつたが、この方式ではいかにして日本文を容易に、簡単な装置で入力するかという面に重点がある。これは漢字を音訓という構成要素で入力するのであるから、もちろん正確に読めることが前提である。
カナで入力するに当つて、だいたい次のような方法が考えられる。
(1) 漢字かなまじり文をそのままベタのカナ文字文として入力する。
(2) 一般の分かち書き程度の手を加えて入力する。
(3) 漢字で書かれていた部分に特定の記号を付けるとか、音訓で注釈を付けるとかして、漢字への変換を容易にしてやる。
当然のことながら、入力するに当たつて人間が手を加えれば加えるほど、計算機側は変換が楽となる。(1)は人間側にとつては、ただタイプを打つだけであるから一番楽であるが、計算機の苦労は想像にあまりがある。したがつて両者のバランスを考えて、最も効率のよい方法を選ぶべきであろう。ただこの場合、計算機処理の目的によつて多少入力の方式が変わつてくる。
たとえば、計算機で編集・植字を行ない印刷するというような応用の場合には、途中で文を分析する処理が入らないから、分かち書きの必要はなく、また原稿通りに植字しなければならないから、原稿で漢字を用いていた語は、かならず漢字で植字できるように指示を与える必要があろう。また別の例として、機械翻訳のように文を分析して処理する応用では、前もつて分かち書きをして入力してやるメリツトが大きい。
実際にこれを行なう一つの方法を、具体的に説明しよう。次の文を入力するとする。
公表された政府案について、二つの視点から検討したい。
これをカナタイプで次のように打つ。ここに*は漢字であることを示す記号である。
*コウヒヨウ*サレタ*セイフ・アン*ニツイテ、*フタ*ツノ*シテン*カラ*ケントウ*シタイ。
これが計算機へインプツトされると、*記号にしたがつて漢字に変換されるが、同音語の選択と変換を確認するために、次のようにデイスプレイ装置に結果を表示すれば理想的である。
*コウヒヨウ* <1>公表 <2>好評
サレタ された
*セイフ・アン* <1>政府・<1>安 <2>案 <3>暗
ニツイテ、 について、
*フタ* <1>二
ツノ つの
*シテン* <1>始点 <2>視点 <3>支点 <4>支店
カラ から
*ケントウ* <1>見当 <2>検討
シタイ。 したい。
下段に同音の語が二つ以上現われたら、確認のうえ不用の語を消去すればよい。またこのデイスプレイを用いて校正も同時に行なえるから、この確認を通過した情報の信頼性は高い。なおプログラムを精密にし、文の前後の関係から同音語を消去する方法をとれば、デイスプレイされる同音語を、より少なくする可能性は十分にある。サ変動詞や形容動詞となりうる名詞を、前もつて区別しておくなど有効な方法である。たとえばこの方式を用いれば、前の例で「好評(する)」「見当(する)」などは、前もつて消去される。
この方式はインプツト作業に、計算機とデイスプレイ装置を使用するので、コストの面から問題はあるが、原理的にカナ・インプツトに致命的な障害はないことを示している。将来の情報化社会においては、この方式が本命となるかもしれない。これを用いると、印刷における文選作業がカナタイプで行なえるようになるから、印刷産業に一大革命をもたらすであろう。また明治以来論争の的となつたかな文字化、ローマ字化の問題も、漢字かなまじり文を含めて、計算機によつて簡単に変換可能となるから、それほど本質的な問題ともいえなくなる。それぞれの目的に応じて、適当に計算機からアウトプツトすればよいからである。
漢字をカナでインプツトするに当たつて、カナと漢字を一対一に対応させ、変換のあいまいさを取り除こうという考え方もある。たとえば、漢字に音と訓によりふりがなを付けておき、このふりがなによつてインプツトするもので、原理的には数字コード方式と同じである。
山(サンヤマ)高(コウタカ)
ただしこのようにしても同音字が出るから、なんらかの工夫が必要である。
他の方法としては、電話で電報を打つときと同じように、冗長性を持たせて区別するもので、たとえば、
関係の関 横浜の浜
として、インプツトの形としては、
#カン・・ケイ ・・ヨコ#ハマ
のようになる。この他にもまだまだいろいろ考えられるが、有効性については実験をくりかえして確かめる必要があろう。
最後に、カナ・インプツト方式は、英文タイプを用いてローマ字で行なつても、全く同じことである。
別紙(三)
<省略>